私が天使だったころ
「どうやって育てるわけ?」

「克也に父親になってなんて言えない。だから生んだら1人で育てようと思ってる」

「金は?」

「朝から夜までバイトして稼ぐ!生まれてからも頑張って働くしっ」

克也はため息をつくと、

「時給800円そこらのバイトで子供が養えるわけねぇだろ!」

怒鳴られると、思わず動けなくなった。

「つわりとかもあんのに働けるわけねぇし、親にも頼れねーんじゃ話になんねぇよ」

私がこんなに必死に考えても、克也はそれを即答で否定する。
優しい克也なら本気なところをみせたらわかってくれるなんて甘えてた分、無性に克也が怖かった。

「だいたい住むとこもねぇだろ。まさか、妊娠してまで この家に住むわけ?」

「それは……」

思わず黙り込んだ。ここは私の家ではない…他人の子供を妊娠した私を、恋人でもない克也が面倒みてくれるはずもない。

克也はしばらく私を見つめると、急に立ち上がった。

「俺出掛けてくるから」

「え…どこに…?」

「関係ないだろ」

冷たくあしらわれると克也は出ていった。
玄関のドアが閉まった音がすごく大きく感じる。

私専用のクローゼットを開けると、中に携帯が置いてある。克也にあったあの日から一度も見ていないから電池は切れていた。
電源を入れると懐かしい待受が映る。
でも携帯は問い合わせをしてもメール一つ着ていない。

『親にも頼れないんじゃ話にならない』

克也のセリフが頭に浮かぶ。
携帯を握りしめると涙がでてくる。

突然頬に冷たいものがあてられた。

「きゃっ!」

驚いて振り向くと、克也がコップを差し出してきた。

「ほら」

コップの中にはレモンスカッシュが注がれている。

「え?」

「よくわかんねーけど…つわりん時って酸っぱいものが食べたくなんだろ?
姉貴が前によく買ってこさせてたから」

「ありがと…。でも普通グレープフルーツとかだよね」

「そうなのか?」

克也は首を傾げながら自分も飲んでいると、私の携帯に気付いた。

「電話したの?」

「ううん…懐かしくなって電源いれたんだけど、電話もメールもなかった。私なんかどうでもいいみたい…」

「そうか…」

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