私が天使だったころ
克也は黙り込んで、私も何を話していいかわからない。

「…あのさ」

「ん?」

急に話し掛けられて驚いたが、克也はまたすぐに黙り込んでしまった。

「…結婚しよっか」

驚いて声もでない。そんな私を克也は後ろから抱きしめる。

「子供…俺と育てよう?」

「でも…この子はっ…」

克也は私の口を人差し指で押さえると、軽く頷いた。

「さっきはあんな言い方してごめんな。
でもすぐに父親になるなんて軽いノリでは決めたくなかったんだ…命なんて、そんな軽いもんじゃねえから」

克也は私を振り向かせると、強く抱きしめる。

「…同情?それとも、あの時私を1人にした責任とか?」

私は抱きしめられた腕を振り払って尋ねる。でも目から涙は止まらなかった。

再び強く抱きしめられる。

「そんなんじゃねぇ…」

「…じゃあ何で?」

「ずっと一緒にいてぇから…それだけじゃ理由にならないか?」

克也の顔が近づいてくる。

「…なってくれるの…?私、生んでもいいのっ?」

「ああ。俺もちゃんと働くから」

私は黙って克也を受け入れた。


私のお腹の中にいる赤ちゃんは、確かに私の好きな人の子供ではない。
でも私は気付いた…。
大切なのは父親が誰かってことじゃない。
誰がこの子を愛してくれるかってことだと思うから…。
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