私が天使だったころ
目を覚ますとそこは部屋のベットだった。

(あれ…私…)

腹痛は治まっている。

「奈々?大丈夫か?」

懐かしい声…横をみると克也が隣にいた。

「…克也?」

「なんだよ寝ぼけてんのか?」

「だって克也血だらけで…」

「おいおい、勝手に殺すなよ!ほら手貸してみ?」

克也は私の左手の薬指にピンクダイヤの指輪をはめる。

「これお前に似合うと思って買ったんだ。これからは俺とお前と、それから生まれてくる子供と3人で暮らそうな」

克也がいつものように頭を撫でながら言った。

「うん!」

私が微笑むと、『ゴメンナ』という声が聞こえたような気がした。



「気がついた?奈々ちゃん!」

その声に目を覚ますと、そこは部屋ではなく病院だった。

「…克也…?」

そこにはどこにも克也はいなかった。
隣には弘が心配そうに手を握っている。

「弘くん…?あれ…克也は?」

弘は首を横に振った。

「克也さんは死んだんだよ。さっき奈々ちゃんの携帯に両親から電話があって、遺体はあっちでひきとるって…」

「嘘…だってさっきまでいたんだもん。克……」

頭の中に英紀とのやり取りが流れた。

克也はどこにもいない…。
英紀に殺されたから…


「奈々ちゃん、今は身体休ませなきゃ…」

「弘くん、赤ちゃん…私の赤ちゃんは?!」

「残念だけど…流産だって…」

「……」

「奈々ちゃん、気持ちはわかるけど今は自分の身体を大切にしなきゃ……」

その言葉にかっとなって弘を睨みつけた。

「わかるはずなんてないじゃない!大好きな人も大切な赤ちゃんも…弘くんは失ったことなんてないでしょう?!」

突然声を荒らげた私に、弘は何の言葉も言わなかった。

「…確かにねぇな…」

弘は背をむけたまま、ぼそっと呟いた。

「もう帰って!」

私はそう言って側にあったコップを投げ付けると、弘は静かに部屋からでていった。

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