私が天使だったころ
それまでの1週間、克也は朝方まで家に帰って来なかった。

毎日朝起きると机の上に5万円置いてあって、私は夜に夜食を作って机の上に置いておく。
これが1日だった。


−日曜日−

前から雑誌でみていた水族館に行く事になった。家から車で1時間位のところだ。

「お前、何そんな真剣に魚みてんだよ?
食いてぇのか?」

克也が冗談混じりに言う。

「魚はいいよね。こんな狭い水槽でも、仲間達と楽しく泳げるもの…」

「でも魚だって自由に泳げる方がいいだろ」

私は黙って水槽を見つめた。


私は克也が好きなのか…
それとも頼りにしてるだけなのか。

私の中に答えはでなかった。


「私…生まれ変わったら魚になりたいな」

そう言ってのばされた手を握りしめた。

(そして克也と一緒にいたい…)


お土産コーナーで克也はイルカの灰皿を選んでいた。

アクセサリーのコーナでシルバーの指輪に名前を彫刻してくれるらしい。
カップルが笑顔で買っていく光景を私が羨ましそうに眺めていると、それに気付いた克也が走ってきて指輪をみた。

「なんだよ。欲しいのか?」

「うん」

「それくらいなら俺がやった金で買えるべ?」

克也が不思議そうに聞いてきた。

「あっ。もしかして、俺とペアがいいわけ?」

「ち、違うからっ!」

急に恥ずかしくなって、思わずその場から逃げてしまった。それでも名残惜しくて、チラチラ後ろを振り返る。


水族館を見終わってから、隣の公園のベンチに座ってしばらく話していると、観覧車のネオンが目についた。

「ねぇ!観覧車乗りたい!」

私が強引に手を引くと克也は嫌そうについてきた。

「俺、高い所苦手なんだけどな」

後ろ頭をかきながら恥ずかしそうに言っている。

「そっかぁ…じゃあやめる?」

「ああ、いーよ。乗りたいんだろ?飯のお礼に付き合ってやる!」

いよいよ次になった時、以外に私より克也のが期待満々の顔だ。私が思わず笑っていると係の人に指示されて薄いピンク色の観覧車がドアを開いた。
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