ふたりだけのおとぎ話

―穴堀り少年


『ごめん、もう疲れた』

ひさしぶりに来た彼からのメールは、たった一行だった。
メールに気がついたときにはもう遅くて、私が送ったメールは送信エラーで返ってきた。

『送信先メールアドレスが見つからないか、送信先メールサーバの事由により送信できませんでした。』

無機質な文面のメールを閉じて、代わりにアドレス帳を開く。彼の名前を見つけると、私の指はためらいもなく削除した。

すごい世の中になったと思う。
顔を見ることもなく、声を聞くこともなく、こんなにも簡単に人と別れることができるようになった。
これがいいことなのか、悪いことなのかは分からない。ただ、便利だ。
人間の文明はきっと、自分たちが少しでも傷つかないように、傷つかないような発展をしてきたんだ。

実際に私の心は静まりかえっていた。私の場合は顔を見合わせて、拒否の言葉を告げられたとしても動揺することはなかったけれど。
昔からずっとそうだった。
そばにいてほしいと言う男の人を拒否したことはなかったし、離れようとする男の人を追いかけることもしなかった。

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