車輪の唄
由香は僕の姿を見るなり腕時計を見て、
「7分遅刻だよ!」と言って白い息を吐いた。
”キーっ!”と音を立てて由香の前に自転車を止める。
「ごめん、出ようと思ったらさ・・・ハァハァ。空気が入ってなくて慌てて空気入れ探してたらハァハァ、遅れちゃった・・・」
「もう、最後までだらしないんだから」
由香はそういって大きな鞄を自転車のカゴに押し込んだ。
「なんかこの自転車、車輪とかサビてんですけど大丈夫?」
「ごめん、二人乗り出来るのってこれしかなくて・・・」
僕は由香の顔を見ることが出来なかった。
「来ないかと思ってハラハラしたわ、ケータイにも全然出ないしさ」
ケータイを確認すると何件も由香からの着信履歴が入っていた。
「・・・ごめん、気がつかなくて」
「ヒロ君って、さっきから謝ってばっかりだよね?」
そういって由香は自転車の後ろに乗った。
「・・・ごめん」
「しゅっぱーつ!ほら漕いで漕いで!」
由香は大きな声で言うと僕の背中を2、3回叩いた。
「うん、行こうか」
錆び付いた車輪は悲鳴を上げ僕等を運んでいく。
明け方の駅へと。


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