車輪の唄
由香を乗せた自転車は漕ぐたびに”キィキィ”と悲鳴を上げた。
カゴに乗せた荷物が重くハンドルを取られるので、いちいち蛇行になる。
「ちょっと。落ちるってば、真っ直ぐ走ってよ」
由香は文句を言うわりには楽しそうに言った。
「そこっちだって一生懸命に漕いでるんだよ。文句言うなよ」
「はーい。わっかりましたー」
そう言って由香は強く僕の背中を抱きしめた。
背中から由香の温もりが伝わってくる。
「あったかいね、いつもよりずっとあったかいよ」
由香は言ったけど僕は聞こえないフリをしてペダルを漕いだ。


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