車輪の唄
「じゃぁ行こうか?」
鞄を持ち上げた由香は改札口へと向かう。
僕もその後に続いた。
一歩、一歩がまるで死刑台に向かうような気がして重くなる。

大きな鞄が改札口に引っ掛かり由香は僕を見た。
僕は何も言わずに引っ掛かった鞄を外してあげる。
「ありがとう・・・」
由香は細い声で言った。
「行くなよ」
「え?」
その時、僕は初めて由香の目を見た。
由香の目には、やはり涙が溜まっていた。
「行かないでくれよ」
僕はなんてヒドイ事を言っているのだろう。
どうしようもない男だ、でもそれが本心だった。
いつまでも由香と一緒にいたかった。
ずっと一緒に居れると思っていたんだ。
「それは出来ないよ、ごめんなさい」
彼女は鼻をすすり、一人で駅の階段を登った。
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