車輪の唄
僕は全力で走り駅を飛び出て自転車に乗り込む。
錆び付いた車輪は線路沿いの下り坂を風よりも早く走っていく。
「由香!由香ーっ!」
僕は全力で君の名前を叫んだ。
しかし電車はスピードを上げて僕等を離して行く。
「ヒロ君!ヒロ君!危ないってば!」
泣いていただろ?
ドアの向こう側でさ、見なくてもわかっていたよ。
だって由香の声は震えていたから。

「由香ーっ!」
君に見えるように自転車から手を離し、大きく手を振った瞬間に大きな衝撃と共に自転車は空中に吹っ飛んだ。
僕の体は宙に浮いた後、派手にアスファルトに叩きつけられた。
その後に”ガシャーン”と自転車が落ちる音が聞こえた。
僕の体は冷たいアスファルトの上をゴロゴロと転がった。
景色がグルグルと回る世界もグルグルと回っていた。
転がった後は映画のシーンのようにゴミ袋の山に体は叩きつけられた。
すぐに立ち上がり電車を探したけどもう電車の姿はどこにもなかった。
「痛てぇな・・・くそっ」
涙がボロボロと出た、それは転んで痛かったからって事にしとくよ。

どこかで車のクラクションが聞こえる。
カラスの声も鳴きはじめる。
世界はいつも通りに動き始め僕を飲み込む。

街は賑わいだしたけど、
「世界中に一人みたいだなぁ」と小さくこぼした。
錆び付いた車輪はカラカラと音を立てながら回り、やがて止まった。

< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

映画の話

総文字数/4,600

実用・エッセイ(その他)11ページ

表紙を見る
4クレジット

総文字数/2,556

コメディ6ページ

表紙を見る
怒リズム4

総文字数/1,966

実用・エッセイ(その他)5ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop