DOLL・・・ ~秘密倶楽部~
普通なら
こんな非常識な時間に
電話なんてしない
でも、今のあたしは...
常識とかけ離れた世界に
足を踏み入れようと
している...
だから朝を
待つ訳にはいかない...
この決心を持ったまま
夜明けを待つ自信はない...
陽が昇ればきっと
凛とした太陽に一瞬で
焼き尽くされて
しまうだろうから...
まだ、他の答えを探している
もう一人の自分を押し込めて
あたしは飯岡へ電話をかけた
プルルルル...ル
ガチャ
「ぁ、ぁの...
き、決めました...
ヨロシク..ぉ願いします」
あたしは電話の向こうの
見えない飯岡に頭を下げる
「... ぁ?」
真夜中、突然の
意味不明な電話に
飯岡はしばらく沈黙した後
「...わかった
必要なものは全て揃っている
お前は身一つで空港に来い」
そう言いうと
電話は一方的に切れた
もぅ...
後戻りできない...
そう自分に何度も
言い聞かせながら
母の小さな手鏡と
事故に遭った瞬間から
時を刻むことを忘れた
兄の腕時計を胸に抱き
あたしは古い一枚の写真を見つめる
まだ生まれて間もない
あたしを抱く母と
その母の肩に優しく触れる父
父の足元で嬉しそうに
あたしの小さな手を握る兄が
写っている
たった一枚きりの
家族写真...
あたしはそれらを大事に
ハンカチに包みカバンの奥に
そっと押し込んだ
夜が明けると
慌ただしい時間が過ぎて行く
廃品業者に家財道具の引き取りと
処分を頼みアパートを引き払うと
あたしは近くのお寺に行き
父と母と兄の供養をお願いし
位牌を引き取ってもらった
それからお世話になった
伯母と喫茶店のマスターヘ
心ばかりのお礼を送る
本当は直接
渡したかったんだけどな...
ごめんね...
そしてあたしは
空港へと向かう
これでいい...
これでいいんだよね...
あたしにはもう...
帰る場所なんてない...