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「ありがとうございます」
桜は倭に向かって深々と礼をした。
その礼があまりにも礼という感じだったので、響が桜に言った。
「何やってるんですか。こんなヤツに頭下げなくてもいいですよ。よけいつけあがりますから」
この言葉に倭は返すべき言葉が見つからなかった。
そしてまた、桜の耳元で小さく何事かをつぶやいた。
何を言ったかはわかりようもないが、たぶん、倭の悪口だろう。
響はことごとく倭をけなす。
これでもか、というほどだ。
口喧嘩をすると、いつも倭が負ける。
この響の毒舌に勝ったヤツは今まで一度も見たことがない。
そんなことを倭が考えていると、ふいに桜の声がかかった。
「では、行きましょうか。私どもの国へ」
「私どもの国って・・・?ドコなんだよ」
倭にしては鋭いツッコミを入れる。
それに対して、桜は冷静に答える。
「行けばわかります」
「パスポートなんてないぞ?」
これには、響も納得する。
「いりませんのでご心配なさらないでください。ここで準備してもかまわないですか?」
「何の準備ですか?」
興味津々の響が尋ねる。
「わたくしの国へ来て頂くための準備です。少々時間がかかりますので、その間に旅支度を整えておいてください」
「何か用意するものがあったら、何でも倭に言ってくださいね。たぶん断れないから」
「何だよ、断れないって」
すかさず、倭が反論する。
「だって女の子に頼られたらいつもすぐ承諾するじゃん」
キッパリと断定する。さすが双子、相手のことは大体知っている。
「いえ、かまわないでください。それより、早く荷物の順備をしてください。時は一刻を争うのです」
ただならぬ気配を感じ取って、二人はいそいそと部屋に戻り小さなバッグにもくもくと荷物をつめ始めた。