黒い風船
「高宮さん…」

パパの声。確かに、パパの声。

『高宮のババァ、死にやがった』


昨日、聞いたばかりの、パパの声。



「高宮さん…借りた金は…返すのが常識なんだよぉ…あんたの奥さんはよお…借りた金も返せない屑だったんだ……ウッ…」



閉ざされたドアの微かな隙間から、赤黒い液体が流れてきた。


「やめて…」



私はものすごい勢いで、逃げ出した。

頭が、真っ白。
何が何だかわからない。



ただ、殺されたくないって、気持ちしかなくて。

たったドア1枚の向こうで起こっていることが、とても現実のものとは思えず、ただ、走った。



何度もころんだ。

ひざから血を流して、涙をボロボロこぼしながら

がむしゃらに走った。




走りながら祈った。


早く目を覚まさせて。


これは悪い夢なんだから。






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