黒い風船
親切なオジサンに連れられて、タクシーで家に戻ると、買い物から帰ってきたママは、キチガイのごとく泣いていた。
でも、今になって思う。
あのときママは、ほんとうに泣いていたのだろうか。
そう思ったのは、
パパの死が確認されて、1ヵ月も経たないうちにママが新しいパパよ、と紹介した男がいたからだ。
「よろしくね、サガちゃん」
床に穴があいて、落ちていく、感じがした。
忘れない、忘れたくても、忘れられない。
この声は一生私に付きまとう。
誕生日、ドア越しに聞いた、男の声だ。
その後ろにいたのは、その男そっくりの男子だった。
「こっちは藍。今日からサガちゃんの兄妹だよ。」