オリジナル・レイズ

倒れる全くん。

私達の声を聞きつけた看護婦さんが、倒れた全くんをどこかへ運んでいった。


座り込んだままの私と、全くんのお母さん。

全くんのお母さんは、座ったままぼろぼろと泣き出した。


「だからあれ程、エイズの子には近づくなって言ったのよぉ…全を殺そうとするなら、私が…あんたを殺してやるわよ…この化け物…」


私は、頬を押さえたまま立ち上がると、泣き崩れている彼女を見下し、冷たく言い放った。


「人違いで逆恨みはやめて下さい。それに、あなたに殺されなくても、私じきに死にますから」



一人でエレベーターに乗り、1階のボタンを押す。




ドアが閉まると、なぜか涙が溢れてきた。




なぜだろう。


好きな人のお母さんに嫌われているから?

叩かれた頬が痛いから?


人違いで酷いことを言われたのだから、湧き上がってくる感情は怒りのはずなのに…


こみあげてくるのは、悲しみの涙だった。


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