オリジナル・レイズ
お父さんは外国にいるというだけで、全くんもお母さんも彼の父親の話をしない。
日本より遥かに貧しい国で働いているため、金銭面は頼れないとか…
もしくは色々あって、別離状態なのかもしれない。
複雑そうな全くんの家庭の諸事情は、聞かないほうがいいと思っていた。
初恋の相手が死んだと聞き、余計に私が踏み込んではいけない領域だと思っていた。
全くんの、外国に居た僅かな期間のことは。
唇の血を手の甲で拭いながら、全くんが言った。
「水商売だって、俺は嫌だった。自分の母親だぜ。子供の頃は耐えられなかった。高校なんて俺は行かなくても良かったのに…就職どころかバイトも反対されて」
「…うん」
真剣に耳を傾ける。
「それでも一度、入学してすぐ無断でバイト始めたんだけどバレて…母さん、言ったんだ。若いうちしかできないことをしなさい。水商売は、母さんがプライド持ってやってる事だからいいのよって」
「…うん」
「本人が自信持ってやってるならいいかって、次第に思えるようになった。でも風俗だけは…
…風俗だけじゃない。店に行かない日も援助で稼いでるんだ。俺のせいで…」