オリジナル・レイズ
そんな、蒸し暑いある晩のこと。
校舎の壁に沿って、中庭にも紫陽花がいくつも植えられていることに気がついた。
もちろん、すでに花はなく葉だけの紫陽花。
吸い取られるように視線を奪われ、私は紫陽花に近づき、しゃがみこんで眺めていた。
「ツバサー、何してるんだ?」
少し離れたところから、車椅子の全くんが私を呼ぶ。
私は全くんのもとへ歩きながら言った。
「ねぇ、この学校にも紫陽花があったんだね」
「あじさい??なんで今、紫陽花なんだよ。今の季節はアレだろ?」
全くんは軽く笑うと、紫陽花の手前の花壇に視線を投げた。
彼に従って、視線の先を私も追う。
花壇に咲いていたのは、向日葵。
ただ、咲いていたという表現は合わないが…
「みーんな、下向いちゃってるけどな」
向日葵。
そうだ、この季節は向日葵なんだよね。
どうして私、花も咲いていない紫陽花なんか見ていたんだろう。