オリジナル・レイズ
「高遠か?」
先生の問いに私はやっとの思いでうなずき、全くんのもとへと走った。
早く戻らなければならないような気がしたのだ。
私の後ろを先生が追う。
車椅子に乗った、全くんの後ろ姿。
「ぜ――…」
声を掛けようとし、息を飲み込んだ。
全くんはうなだれた状態で車椅子に座っていた。
後ろ姿だったから、一瞬眠ってしまったのだと思った。
全くんの右手に握られた、
血まみれのナイフを見るまでは。
「高遠!お前、何やってるんだ!!」
先生が駆け寄った瞬間、全くんの手からするりとナイフが落ちる。
「先生、もういいよ…俺、どうせ助からないんだろ?」
全くんは遠くを見つめたまま、唇だけを僅かに動かし、
かすれた声で呟いた。
左手首からは、溢れるように血が湧き出ている。