オリジナル・レイズ
――暗い病院内。
治療室の前の茶色いベンチで、私達はドアが開くのを待った。
ずっと黙ったままの二人だったが、私が最初に沈黙を破った。
「手当て、慣れてましたね。私、普通の消毒液を使っていいのかさえ判断できなかった…」
「ああ、身内にHIV感染者がいたから勉強してたんだ。技術を使わないうちに、亡くなってしまったんだけどね」
「…ごめんなさい」
「いや、いいんだ。亡くなったのはAIDS発症する前だったから、高遠のことは気にするな。あいつは、大丈夫だから」
先生は、私が考えていることをズバリ当ててしまう。
そしてさりげなく、本当にさりげなく、私が一番言って欲しい言葉をかけてくれるのだ。
…大人だな。
しばらく再び、沈黙が続いた。
でも、先生が側に居てくれるだけで心地いい。
勇気をもらえる気がした。
「そういえば…」
次は先生が沈黙を破る。
「高遠の側に落ちていた向日葵、どうしたんだ?」