オリジナル・レイズ
「妹達が行った国には、紫陽花がなかったんだよ。だから先生は妹に、たくさんの紫陽花の木を送ったよ。家の庭で育ててたみたいだ」
くすぐったかったはずの心臓が、ばくばくと走り出した。
頭の中が冷たい。
なのに膝の上で握った手は、汗が滲んでいる。
「携帯なんかない時代だから、コレクトコールでよく電話したんだ。
妹は言ってたよ。紫陽花を見るたび、日本を思い出すって…そっちに帰りたい、お兄ちゃんと日本に残れば良かったって」
…帰リタイ…
…モウコンナ国耐エラレナイ…
汚れたのはこの国の注射のせいなのに
HIV感染者が生き続けることはそんなにいけないの?
そんなに私の体を流れる血は汚いの?
そんなに、私は――…
その時頭の中に響いたのは、全くんのお母さんに言われた一言だった。
『よみがえってきたんでしょう。この化け物』