オリジナル・レイズ

無菌室で眠ったままの全くんは、そのまま何日も目を覚まさなかった。

先生が昼間会いに行っても、窓越しで眺めることしかできないと言っていた。



私は、全くんが目を覚ますまでは会いに行かないと決めた。

もっと大切な、やるべきことがあるからだ。



ねぇ、全くん
私の祈りは、遠くからでも届いているよね?

隣で手を握ることができなくても、私はあなたの体温を忘れない。




私と先生は、中庭で毎晩夜空を眺めた。

全くんが残したカメラは先生が引き継いだが、ノートだけは新調したようだ。


「高遠は字が汚いから、同じノートを使いたくないんだ」


冗談ぽく笑って話す先生。

汚いなんて、そんな言葉を先生が口にするの珍しいな。



天文学部を提案したのは、全くんとたくさん一緒に居たかったから。

そして、全くんにずっと星を見ていて欲しかったから。


私が勝手に、全くんのことばかりを考えて提案したのだ。


< 167 / 220 >

この作品をシェア

pagetop