オリジナル・レイズ
震えていた先生の体が、ピクッと反応する。
「ごめんなさい。おにいちゃん…」
アケミの話を聞いていた時に溜まっていた涙が、一気に今、溢れ出す。
…お母さんがね、よく写真を見せてくれたよ。
『ほら、これがお兄ちゃんよ。晴一っていうの。ハルイチだから、ハル兄って呼ぼうね』
『お母さんが一番好きな花はね、紫陽花っていうの。この国にはないみたいで残念ね』
『見てごらん。あなたのお兄ちゃんが、こんなにたくさん紫陽花の木を送ってくれたよ』
ねぇ、ハル兄
病院でハル兄が話した思い出、ずっと引っかかっていたけど、今ようやくわかったよ。
紫陽花が好きだったのは、私じゃなくてお母さんだったんだ。
HIVの偏見に悩み苦しんで、日本に帰りたいってハル兄に電話で訴えていたのも…
私じゃない。
お母さんだったんだよね。
でも帰れなかった。
飛行機にも船にも乗っちゃいけないって、国に言われていたんだ。
お母さんは、私をHIVに感染させた負い目で、火事で焼け死ぬ間際まで苦しんでいたに違いない。