オリジナル・レイズ
【古傷】
自転車は、どれぐらい走っただろうか。
顔に当たっては過ぎてゆく夜風に、
私はふと潮の匂いを感じた。
見ると、私達が進んでいる道路のすぐ外側が海だった。
「…わ、海」
「この辺で…休憩」
全くんはゆっくりとスピードを落とすと、私の体を支えて降ろしてくれた。
通過していく車の音で、波の音は聞こえない。
でも、潮の香りと
体中にまとわりつく、少しベタベタする風が、すぐそばにある海の存在を語っていた。
全くんは海を見ずに、コンクリートの壁に背を向け、もたれかかって座り込む。
ひどい息切れと汗。
辛そうだ。
「…よくこんな場所まで走ったね、疲れたでしょ?」
私も全くんの隣にしゃがみこんだ。
全くんは、息を切らしながら夜空を見上げる。