オリジナル・レイズ
でも、逃げていく男の後ろ姿なんて、私の目には入らなかった。
助かったという事実を頭の中で認めることに必死だった。
「…大丈夫か?」
そっと髪に触れてくれた手にさえ、今の私は敏感になっている。
反射的にビクッとなり、ガタガタと激しい震え。
そんな私の小さな肩に、紺色のカーディガンがふわっとかけられた。
…その時私は、初めて助けてくれた人の顔を見た。
「・・・・・・全くん・・・」
「それ、やるから」
私の方を見ずに、全くんはそう言った。
それっきり、何も言わなかった。
男が置いていったナイフに気づき、全くんは拾って鞄に仕舞い込む。
全くんは、私から少しだけ離れて、砂の上にあぐらをかいた。
しばらく二人で、波の音を聞いていた。