オリジナル・レイズ
私は覚悟して、母親の目を見る。
しかし、彼女は私に向かって深々と頭を下げた。
「…ごめんね、心配させてしまって」
思わず呆然としてしまったが、すぐに首を振った。
「違うんです。私が誤って全くんに怪我を…」
震える口でそう言いかけたとき、
治療室から医師が出てきた。
「ご家族の方に、少しお話したいことがあるのですが」
そして、医師と全くんの母親は消えていった。
茶色いベンチには、私と先生だけが取り残される。
「もう遅いから、帰りなさい。君の親御さんも心配されているだろう」
先生は言った。
私は先生の顔を見なかったので、どんな顔で言ったのかはわからない。
でも、私が怪我をさせたと知っているはずなのに、その口調は穏やかだった。
優しい声をかけてくれた。