オリジナル・レイズ
「…いつも、ここにいるね」
自分が差していた黒い傘を、私の頭上に差し出した。
「・・・・・・」
何も言わない私に、先生は続ける。
「今日ね、高遠に面会できたよ」
――…面会できる?
会えるの…?
聞いた瞬間私は、雨の中を勢いよく中庭を飛び出した。
差し出してくれた傘も、先生が気を遣って話しかけてくれた優しさも、
そのときの私にはどうでもよかったのだ。
全くんに会いたい
全くんに会いたい
その一心で、雨の中の夜道を素足で走った。
病院は決して、学校に近いわけではなかった。
でも、お金がないから走ることしかできない。
中庭の例の石についた赤黒い染みは、
ゆうべから続く雨ですっかり流されてしまった。
そして、危険だから掘り出してしまおうという話も持ち上がっていた。
染みの消えた石や芝生を見て、不安だったんだ。
全くんも消えてしまうんじゃないかって。