オリジナル・レイズ
むしろ落ち着いていて、安らかであるようにも見える。
目が暗闇に慣れてくると、表情がよく見えた。
しかし、
全くんはそっと、そばにいた私の手を握り、恥ずかしいのか、顔をそむけてこう言った。
「今日も、ツバサは家に帰らないのか?」
「え、うん…まぁ」
言葉を少し濁してうなずくと
「今夜、ずっとここに居てくれない?」
と呟いた。
断るわけがない。
うん、うんと私は何度も頷いた。
朝になれば、全くんとは会えなくなってしまう。
でもまた夜に会えるもの。
それに…
今夜、全くんを一人きりにしておくことはどうしてもできなかった。
そっぽを向いたままの全くんの姿が、
孤独な子犬のように見えた。
痩せた細い肩。
何故、彼はこんなに穏やかなんだろう。
HIVと言う名の、ワクチンが存在しないウイルスに感染したのに…
――何も知らなすぎて、この時の私にはわからなかった。