オリジナル・レイズ

…なんだろ。

言われるがままに全くんは車に乗り込み、私は紅色の傘に入れてもらいながら、職員玄関まで行った。


玄関の屋根の下で、全くんのお母さんは傘をたたむ。

ここからは、全くんの乗った、止まったままの車がよく見える。



渡先生が会釈をして去っていくと、全くんのお母さんは車を見つめながら、小さな声で言った。


「あの子の病気のこと聞いたかな?」


私は頷く。


「感染したのは、いつ頃なのか聞いた?」


首を振ると、全くんのお母さんは


「小学校1年生の時らしいの」


と教えてくれた。



「主人の転勤で海外に居たの。そこであの子、事故に遭って。その時の輸血が原因じゃないかって…もう、10年も昔の医療現場だものね」


…そうだったんだ。

と言うか、全くんのお母さんも、ずいぶん淡々と落ち着いて話すんだなぁ…


そう感じていたときだった。


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