オリジナル・レイズ
――翌日の夜
全くんに会いに、病院へ向かった。
今回は大丈夫。
渡先生に、前回と同じ病室だと聞いたから。
次からは先生に聞こう。
昨日の雨でぬかるんだ道も、気にもとめずに素足で走る。
今日は、雨は降っていない。
木のトンネルのような
街路樹の脇を走っていると、
見事に咲いた紫陽花(あじさい)が街灯に照らされていた。
街灯の色がオレンジだったため、紫陽花の色はわからない。
初夏にしか見ることのできない花。
私は足を止め、紫陽花にそっと触れる。
初めて触れた気がする。
でも、この花を見たことがある気がする。
あの日から、私、変だ。
どうして
断片的な記憶ばかりが頭によぎるんだろう。
これは
一体誰の記憶なの?
昔の私のものなの?