オリジナル・レイズ

――翌日の夜

全くんに会いに、病院へ向かった。



今回は大丈夫。

渡先生に、前回と同じ病室だと聞いたから。

次からは先生に聞こう。



昨日の雨でぬかるんだ道も、気にもとめずに素足で走る。

今日は、雨は降っていない。



木のトンネルのような
街路樹の脇を走っていると、

見事に咲いた紫陽花(あじさい)が街灯に照らされていた。


街灯の色がオレンジだったため、紫陽花の色はわからない。

初夏にしか見ることのできない花。

私は足を止め、紫陽花にそっと触れる。




初めて触れた気がする。

でも、この花を見たことがある気がする。



あの日から、私、変だ。


どうして
断片的な記憶ばかりが頭によぎるんだろう。


これは
一体誰の記憶なの?

昔の私のものなの?


< 92 / 220 >

この作品をシェア

pagetop