Automatic Dream
しかして、近くのコンビニで待つとか、徒歩5分なんだし、一旦家に帰るとかいった案も思い付いてはいたものの、それらを無視した上で俺は、正門に手を掛けた。

そこで、ある事に気付いた。

鍵が掛かっていないのだ。

よって、よじ登る必要は無くなり、俺の勇気を返せと、誰に言うとも無く言った俺の小さな声が、周囲1m程に虚しく響き、俺の虚しさを2倍か3倍に膨れ上がらせた。この学校のセキュリティはどうなってんだとクレームをつけたい所なのだが、現在問題にすべきはそこでは無く、誰によって開けられたのか、と言う事だ。

鍵が開いている事で、まだ靄が掛かっていたあの夢がまた一歩、確信に足る物へと近付いた。ただ単に鍵を掛け忘れただけ、と言う可能性もあるが、パーセンテージで言えば4%位だろう、全くの勘だが。

しかし、俺のシックスセンスはなかなか感度が良いらしく、良く当たる、と友人の間では意外と評判で……。

はい、また逸れました。

とにかく、誰が開けたかと言う事だが、恐らく夢に出てきたヤツだろう、ヤツはきっと何やら組織の様なものに属していて、地図も鍵もその組織によるものだと、これまた勘だが、思った。

しかし何にせよ、開いていると言うのは有り難い。これで、早起きしてウォーキングでも楽しんでいる老夫婦が、自宅近くの学校の正門をよじ登ろうとしている怪しい少年を発見する、と言ったシチュエーションは起こり得なくなった訳だからな。

さて早速入らせて貰おうか。何にせよ早くした方が良いだろう。よじ登っている所を見られるよりマシだろうが、それでも不法侵入には変わりない訳で、不特定多数の人間に見られる可能性は時間が経てば経つほど増していくし、何より早いとこ腰を落ち着けたいのだ。

しかし、この時間帯は良いね。署光が美しいよ。そしてその署光に照らし出された校舎もまた……いや、かえって不気味だな……。

今からここに突入を敢行しなければならない、と言う状況に陥ってしまった俺の気持ちは、やはり陥ってしまったヤツにしか分からないだろうし、ここでは敢えて言わない。

………さっさと入ろう。

そうして持っていた落書き、もとい地図をポケットに押し込み、音がしない様にそっと門扉を押した。

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