Automatic Dream
しかし、人質が誘拐犯に逆らう事など出来ようはずも無い。

事によっちゃ銃かなんかで撃たれたりするかも知れん。
意外と簡単に手に入るらしいし。

日本もおっかない国になったもんだ。

「まだぁー? もう臭くて堪らないわぁ。早くしてちょうだいよぉ」

そのくぐもった様な声は、どうやらそのマンホールの中から響いて来る様だ。

そういやポニーテールの方が居ない。
何故マンホールの中に?

そして何故俺までその中に?

何かあるってのか?
それとも何か居るのか…?

ポニーが先に降りてるんだし、さして危険も無さそうだが…。

「早くしなさい、時間もそんなに無いんだから」

今日の俺は、黙って従う、と言う言葉の権化と化しているなとか、訳が分かった様な分からない様な事を考えながら、やっぱり黙って従うしか無く、異臭を吐き出す穴の内壁に張り付いた赤茶色の梯子に足をかけた。

所々で足や手を滑らせそうになりながら、ようやく下まで辿り着いた俺が見た物は、これまで見た事も無い様な物だった。

そこはマンホールの底。
そりゃあ見た事なんか無いさ。

まぁ、あんな前フリはいらなかった訳だが。
ただマンホールの底に到達しただけだからな。
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