Automatic Dream
「良いからどいておれ」

少女はそう言ったが、俺の唇はまたしても勝手を言う。

「そんな訳に行くか」

行っとけ。行っとけよ俺。馬鹿は止せ。

いや何言ってる。馬鹿はお前だ。この少女が何者かは知らないが、ここで逃げて良いのか? お前はそれで心が痛んだりはしないのか?

しかし、このままじゃ殺されかねんぞ。俺は命が惜しい。

この娘の命は? 見捨てるのか? 本当に良いのか?

良くは無いさ、しかし……。二人死ぬよりどちらか一方生き残れたほうが良いだろ。

だったらこの娘のほうを生かしてやろうじゃないか。

……………………。

やっとまとまったようだ。脳内会議終了。

「佐藤。お前は間違ってる。力で解決なんかできやしない」

俺の正義漢っぷりには、このおれ自身が一番驚いているが、佐藤も驚いたようだ。少女の方も驚いたようで、

「おぬし……何を言っておる! 早く逃げんと殺されるぞ!」

「いーや。お前が逃げろ。事情は知らんがここで逃げちゃ男が廃るってもんだ」

まったく俺らしくない発言だ。こんな状況に陥って俺の脳回路はショートしたらしい。

「良いわ……ここでこいつを殺れるなら、もうあなたなんて必要ないもの……! でもまずはそっちのガキからよ! そこをどけ!」

佐藤は俺を押しのけた。押しのけただけなのだが、奴の怪力により俺は壁まで吹き飛んだらしい、痛む背中と砕けた壁と、急に遠くなった二人の姿がそれを確信に変える。

佐藤の足は床を蹴った。俺の目は若干霞んでいたが、フローリングの床が砕けたのを俺は見逃さなかった。

拳は真っすぐ少女の顔面目掛けて飛んでいった。

俺と少女との距離はおよそ10m、拳と少女との距離はおよそ10㎝。胴体にさよならを告げる小さな少女の頭を想像してしまい、俺はとっさに目を瞑ってしまった。

………………。

目を開けると、佐藤の右拳は俺のみぞおちに突き刺さっていた。

俺はぐぅとか、うぇとか見っとも無い声を出して膝をついた。

「ってぇな! チキショウが!」

誰に言うとも無く叫んでみる。

…………。

俺生きてる? てっきりあのドアの様になってしまったかと思ったが。

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