Automatic Dream
見事? なんだ見事って? 

「お前の『夢中』の事じゃ」

むちゅう? ごりむ? 五里霧中の事か? 五里四方に霧を発生させて、自分へ教えを請いに来た旅人なんかを迷わせた仙人の話か?

「とは違うの」

だと思ったよ。ここに来て人嫌いの偏屈仙人の話なんかされても困る。

「なんじゃ。知らんで使っておったのか。『夢中』とは……」

そこで奴の言葉は途切れた。何故か。邪魔が入ったからである。

「ユキ!」

ふむ、聞いた声だな。しかもついさっきか。

声と共に別の音も飛んできた。それは何度も聞いた事のある音で、先程吹き飛ばされたはずの物から、吹き飛ばしたはずの人物によって発せられていた。つまり勢いよくドアを開けたわけだ。今度は壊さずにな。

「足は!? 足は大丈夫!?」

おおう。なんかえらく心配されてるな。滅多に無い事だ。気分が良いな。だが心配には及ばん。全部夢だったんだからな。足だってほら、この通り……っ!!

「ユキ!」

俺はコケた。みっともない声を上げて、みっともない格好で。

「大丈夫?! 今担架を……!」

佐藤が何やら言ってるようだが、俺は聞いちゃいなかった。

とんでもなく足が痛かった。激痛なんて言葉じゃ形容しきれないほどに。

俺は足を見た。足はそこにあった。あったが、それはもう足とは呼べないほどの代物になっていた。

腫れていた。サッカーかバスケットのボールにでも出来るんじゃないかって位の、それはもうものすごい腫れようだった。

意識が遠のいていくのを感じた。視界がかすんでいく。

完璧なブラックアウトになる直前、俺はふわふわと浮いてどこかへ移動している気がした。それはどこか、慎重に丁寧に扱われているような感じがして、俺は少し安心した。そして暗転。意識と共に暗闇へと落ちていった。



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