想い日和 <短>
私は何も言わず、何も言えず、ただ黙って木村を見つめ返した。
少し離れた校舎から、風に乗って聞こえる笑い声のせいで
私達に流れた沈黙は、さらに静けさが漂った。
「なぁ……」
「な、何?」
「去年さ、ここで約束したの、覚えてるか?」
……覚えてるか?って聞きたかったのは私の方だよ。
忘れて、なかったんだ――
「…覚えてるよ」
“よかった”白い吐息を吐きながら呟いた、冬なのにまだ夏みたいに焼けたままの木村の顔は
なんだかちょっと赤くて、白い花びらがほころんだみたいな……
柔かな微笑みが浮かんでいた。
見たことのない、新しい木村。
私だけのものだといいな。
今の木村……
私だけが一人占めしたいな。
バカみたいだけど。
この期に及んでも、私はまたひとつ……
木村を好きになった。
「知ってる?オレ、レギュラー取ったんだぜ」
「そうだったんだ」
知らない振り。
素っ気ない態度。
本当はいっつも見てたくせに。
つくづくバカがつくほど、素直じゃない。
「賭けはオレの勝ち!」
「みたいだね」
「だから、さ……」
「……だから?」