犬神さまのお嫁さま
 「希彦放して!ていうかなんで私のベッドに――」

 「ん、もう少し…」



 「もう少し何?」と聞く前に希彦の腕が動きそのまま抱き寄せられた。

 きゅっ、と頭ごと希彦の胸に押し付けられる。
 何も身に付けていない胸板が頬に触れた。

 薄いわけでもなく、かといってムキムキってわけでもない。
 程よい胸板から穏やかな心音が聞こえる。

 ゆるいリズムを刻む心臓の音は心地いいけど素肌に触れているという事実が私の羞恥心を煽る。



 「ちょっとやめ…!!」



 どうにか希彦の胸から逃れようとバタバタしてみるけどきつく巻かれた腕はびくともしない。
 寧ろ暴れれば暴れるほど寝ぐずる駄々っ子のように頑なに抱きしめられた。



 「うるさい…昨日遅かったんだからもう少し寝かせろ…」

 「…やぁっ!」



 希彦は抱き枕な私をよほど放したくないのか抱きしめた状態からそのまま上に覆いかぶさった。

 重力に従った体がさっきよりもぴったりと密着する。

 昨日は熱帯夜だったもんだから私の寝巻きはタンクトップとパイル生地のホットパンツのみ。
 肌の露出面積が多いものだから当然のことながら希彦との肌同士の密着面積も多いわけで――


 …多いわけで――?
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