犬神さまのお嫁さま
 しまった、今さっきのうちに逃げてればよかった!


 私は慌てて組み敷かれた下から抜け出そうとしたがもう体は動かない。

 しっかりと希彦に腕を押さえつけられていて、まるで標本の蝶のようにベッドに張り付け状態にされた。

 上から押さえつける力を下から跳ね返すというのは普通であっても難しい。
 それが男の力なら尚の事だ。

 身動きが取れない私の体に希彦の顔が近づく。
 そして形の良い唇が動き言葉を紡いだ。



 「――俺が好きとか関係ない。楓が、俺の事を好きになればいいだけの話だ」

 「またそんな事いっ――」



 「言って」と言うより先に噛みつくような勢いでキスされた。


 希彦とのキスは2度目。

 1回目は美沙都や奈穂の目の前で貪り蹂躙するような舌使いを含んだもの。

 脳が蕩けるほど熱く激しいもので衝撃的だったけど今回のキスも別の意味で衝撃的だ。
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