犬神さまのお嫁さま
 「――んんっ!」

 「…ん、はぁ」



 キスのタイミングを見計らって瞬間的に身をよじるとどうにか唇が離れた。
 希彦はキスする事に気を回していたようでさっきのような力を込めて私の腕を掴んではいない。

 急に離れた唇に目を瞬かせる希彦を尻目に私はここぞとばかりに希彦の手を払い退けベッドの上で後ずさった。

 未だに希彦との距離は1メートル以内だけど組み敷かれたままよりは安心だ。



 「…なんで逃げんだよ」

 「あ、当り前でしょ!?」



 じっと私を睨みつける希彦の目に息が詰まる。

 少し潤んでて、…まるで泣くのを必死で我慢している小さな子どものような目元だったから。

 その顔を見てキュッと胸が締め付けられる。
 さっきのキスよりも心臓が強く動いた気がした。
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