犬神さまのお嫁さま
 切ない、響きの声が耳に届く。

 さっきまでの傍若無人ぶりも、今までの学校での俺様ぶりを忘れさせてしまうほど熱っぽく乞うような声がまるで見えない鎖のように私の体と心を縛る。


 ゆるゆると柔らかに縛るくせに絶対に解けない強固ない縛めだと思う。

 逃れ、…られない。



 「まれ、ひこ…」

 「――…」



 乾ききった喉が無意識のうちに希彦の名前を絞り出す。

 それに応えるように目の前でゆっくりと希彦の唇が動いた。

 まるでスロー再生した映像を見ているよう。


 綺麗な唇に意識が集中してしまい肝心の声が――、音が遠い。

 何を言われたのか思い返そうとした刹那。
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