フリージア
「さっきの人になにか言われたの?」
「うん……部屋に戻ってろって」

「……そう、なんだ」
「ゴメンね。だから、もう戻らないと」


ユウタはこのあいだと同じように私を置いて立ち上がる。


「待ってよ!」


慌てて手を伸ばして彼を引き留めた。

なにか言わなければこの間のようにユウタは行ってしまう。

そうしてしまったら、なぜか、このまま彼と会えなくなるような気がした。

そんなことはないはずなのに――

焦れば焦るほど、私の口からは言葉が出てこない。
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