フリージア

「今日はさ、最期の日だから院内を散歩したかったんだ」


ユウタの声が聞こえるにつれて、嫌なくらいに頭が冴えてくる。

ユウタは人間ではない。

ヒトに――
私に適合するように造られた存在。

移植治療のためだけに存在し、命を落としていくこと。


『バンク』


国民の誰もがその呼び名を知っていても、それがどんなものであるか知らない。知ろうともしなかったシステム。

人の命を助けるために、人が死んでいく。

でも、彼自身、命を失うことには何の関心も示していない。

きっと、誰からも「死」という概念を教えられていないんだろう。

それは彼らにとっては、必要のないことだから……
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