繚乱狂宴
「今、あんたが受けている痛みと同等なモノなら、理解できる」

刃を、押し込む。

プツ。

力は抜いているが、チクリとした痛みが全身を駈け巡った。

刃を離すと、動脈の部分に一筋の赤い線が走り、

血の玉が肘に向かって滴り落ちる。

「……」

小夜は、その様子を平然と見ていた。

僕は傷口を見せつけるかのように、小夜へと腕を伸ばす。

「どうして……どうして貴方は、私に関わるの? 関わるコトに、必要性を感じていないのでしょう?」

「感じちゃいない。だが、必要性はないが、関わることによって、生じる『可能性』を見たからだよ」

「『可能性』……?」

あえて、それ以上は喋らなかった。

寝台脇のティッシュで、血を拭き取る。

初めて行ったリストカット。

痛くて、怖くて、どこか、安心した。

「最後にもう一度言う。死ぬのはよせ」

踵を返す。

「……出て行きなさい」

小夜は小さく毒づいた後、僕の背に命令をする。

やはり、ここは従った方が賢明だろう。

「本当に死ぬ覚悟があるんなら、剃刀なんか使わない」

そう言い、部屋を後にした。

小夜が、どんな表情だったか、知るよしはない。
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