繚乱狂宴
案の定、子供が呼び止めた。

振り返る。

「あ、あの……貴方は……火野 晶さん、ですよね?」

想像通りの一歩だった。

間違いなく、この子は看護師が言っていた、『年が近い子』だろう。

関係を持たない、そう決めたのに。

決意は音を立てずに、風に攫われた。

「……そうだが?」

鋭い口調で返すと、子供はニッコリと笑う。

「ああ、よかった。人違いはないと思うけど、間違えたらどうしよう、って思ってました」

この状況で人違い以外の間違いはあるだろうか。

「ボクは辻野 幽、って言います。看護師さんから貴方の事を聞いたので、一目会ってみたいなぁ、って思ってました」

『年が近い子』という考えは確定に変わった。

「……そうか」

また、歩き出す。

「ま、待ってくださいっ」

後ろから幽の慌てる声が聞こえる。

「待つ理由がない」

いくら無視しようとしても、パタパタという足音と、点滴が動くガラガラという音が後ろから附いてきた。
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