ふたり分のありがとう
おばあさん
腰の曲がったおばあさんが、座りかけた彼女の腕をむんずっとつかんだ

「ココ、ワタシが座ってもイイかねえ」

そう言うと、女の子が返事をする間もないうちにシートへと腰を下ろした

「歳をとると、横に支えが欲しくなるんだ。お嬢ちゃん、ありがとネ」

車内に響き渡るような大声で話すおばあさんに、
少女は恥ずかしそうにうつむき「いいえ」と、軽く首を振った

おばあさんは、そんな彼女に微笑みかけ
「ありがとネ。ホント、ありがとネ」
と頭を下げた

まるで、初老の男性の分までお礼を言うかのように

何度も…

何度も……


女子中学生は顔を真っ赤にして、さらにうつむいてしまった

しかし、彼女の口もとは微かに微笑んでいた


発車を知らせるベルが鳴り
一斉に扉が閉まる

電車は次の駅へと走りだした

いつの間にか、初老の男性は隣の車両へと移っていた

オレンジ色へと変わりつつある陽を浴びた車内には
ぽっかりとひとり分の空席がある

ひとつ前の駅まで、おばあさんが座っていた席だ

誰も座ろうとしないその席を眺めた車内の人びとの口もとには
確かに笑みが浮かんでいた
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