【キミに伝えたくて…】~執事に恋したお嬢様~
「奈々っ…!あそこにいるのって、もしかして…」
「んー?」
顔の筋肉を緩めたまま
あたしは彼女の見つめる先に目をやった。
その“人物”を見た瞬間
無惨にもあたしの安緒の笑みは、跡形もなく崩れ去っていく。
すぐにでも、この場から逃げ出したくて…
でも、逃げ出せなくて…
動かしたくても両足が鉛のように重く、びくともしない。
あたしの意思に逆らうように
言うことを聞かないこの足を、今は責める余裕すらない。
あたしは焦りの色を隠せずに
ただただその場に立ちすくむことしかできなかった。