優しい嘘
愛人
俊光は多くの生徒を抱えていた。
彼なりのルールがあり、音大受験生、音大生以上、それなりのレベルがなければ生徒は受付てはいなかった。
ある日、中学生程の女の子が弟子にしてほしい、と家に訪ねて来た。
その時俊光は家にはいなく、後で彼に伝えると、その子は前にも来ていたらしい。
「ああ、あいつしつこいんだよ。ガキは教えないって言ってあるから」
「可哀想じゃない、何か必死だったわよ」
「いいんだ」
その時はそれで話は終わった。
しかし、また彼女は訪ねて来て、
雨だった為つい家に入れてしまった。
「あなた、あの子がまた来ましたよ」
俊光は彼女を見ると、
怒鳴り初めた。
「何度も言ってるだろ!ガキは教えない!帰れ!」
すると彼女は土下座をした。
「お願いします!!せめてピアノを聞いて下さい!それから判断して下さい!」
何となく智江はこの光景を見てはいけない気がして、自分の部屋に戻った。
―まだ幼い彼女のあの必死な瞳は、智江の心に残っていた。