優しい嘘
そして、気付いたら智江は彼女の父親のことを口にしていた。
――このまま別れなければ父親に話す。
さすがに、その言葉を聞くと彼女は怯えた様子だった。
(…何してるんだろ、私…)
結婚したての頃はこうなるなんて想像もしていなかった。
―あの子は、俊光が全てだと言った。
『断っても断っても近寄って来るんだ、
小鳥みたいに。』
以前、俊光が言っていたのを思い出した。
―今の自分は、あそこまで俊光を愛しているだろうか。
あそこまで必死になれるだろうか。
俊光は彼女の純粋な想いに惹かれてしまったのか。
―けれど、私は家族を守らなければならない。
家族を愛しているのだから。