優しい嘘
「立花さん、ビジネスクラスのお客様で、機内が暑くて、温度を下げて欲しいと言う方が」
「これ以上無理だって説明した?」
「はい、何度も言ったのですが、納得されなくて」
仕方なく智江が行くと、若い男だった。
「お客様、機内の温度のことですが」
彼は機嫌が悪かった。
「何回も言っているだろ。俺は今しか眠る時間はないんだ。
こんな暑さの中、寝られる訳ないだろ」
「お客様、温度の調整はこれ以上は無理ですが、あちらの空いている非常口のお席でしたら少し涼しいと思いますが」
そう言うと、彼はうって変わってご機嫌になった。
「いいね、さっきよりだいぶ違うよ。有難う」
こんな若くてビジネスクラスに乗れる奴なんて、やはりろくな奴じゃない、そう思っていた。