冬うらら2

「え? あ? カイト?」

 メイは、大きな目を更に大きく見開いて驚いていた。

 それはそうだ。

 定時に会社を出たとしか思えない時間に、彼が帰り着いてしまったからである。

「今日は遅くなるん…きゃっ!」

 自分の疑問を納得させようとする彼女の腕を掴むなり、玄関前にアイドリングさせたままの車に押し込む。

 カイトは、妻を誘拐したのだ。

「どうか…したの?」

 心配そうな目に、カイトの方がいたたまれなかった。

 どういう風に、彼女に説明していいか分からなかったのだ。

 いや、説明なんかしたくなかった。

「すぐ着く…」

 カイトが、答えられたのはそれだけだった。

 そして。

 本当に到着した。

「ここ…」

 メイも自分も、上着を着ていない。

 車を建物の前に無断駐車したまま、看板を見上げようとする彼女を押して、足早に温かい店内に入る。

「いらっしゃ…ああ、いらっしゃいませ」

 一度目のいらっしゃいませは、誰にでも向けられる挨拶。

 しかし、後ろからかぶった方の言葉は、何もかも了解済みの声だった。

「あ、あの…カイト?」

 明るい店内。

 ガラス張りの商品ケース。

 上着のない自分と、エプロン姿のメイ。

「結婚指輪でしたね…じゃあ、サイズを計りましょうか」

 店主は女性で―― そして、笑顔だった。

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