冬うらら2
●23
 結婚指輪。

 カイトに連れてこられたのは、宝石店だった。

 そうして、いきなりその言葉を突きつけられたのである。

 確かに、普通結婚した人の指には、結婚指輪があるものだ。

 しかし、いままでハルコやソウマの話の中では、一度も出てこなかったので、すっかり彼女も失念していた。

 本来なら、仕事中のはずのカイトがそこにいる。

 会えないはずの時間に会えたことは嬉しかったが、その余韻にひたる間もなく、指輪のサイズを計られ始めた。

 ここには、彼自身が連れてきてくれたのだから、許可もへったくれもないのだろうが、やっぱり心配でそっちを見ると、カイトはそっぽを向いていた。

 とりつく島もない気配が渦を巻いて、メイの言及を拒否している。

 これは、彼なりの『GO』サインなのだろう―― 多分。

「9号ですね」

 女性スタッフが、ぴったりのリングをはずしながらそう言った。

 本当は、自分の指輪のサイズは知っていた。

 ただ、計ったのは随分前のことで。

 サイズの変動はなかった。

 いまは、からっぽの指。

 この指に。

 カイトをちらりと盗み見る。

 まだ、彼はこっちを見てくれない。

 仕事が忙しいはずなのに。

 こういうことは、きっと苦手なはずなのに。

 わざわざ、迎えにまできてくれて。

 心の中で、せめぎ合うのだ。

 彼が、すごく自分のことを好きでいてくれるような気がした。

 メイのいないところで、彼女のことを考えて、一度この宝石店に足を運んでくれたのだ。

 指輪のために。

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