冬うらら2

 ああ。

 どうしよう。

 メイは、苦しんだ。

 いますぐ彼を抱きしめて、この気持ちをいっぱい伝えたいと思ったのだ。

 嬉しさと切なさと戸惑いをブレンドしたコーヒーを、きっといまなら、何杯だって彼に飲んでもらうことが出来るような気がした。

 でも。

 ここじゃ、ダメだった。

 メイは、ぐっとエプロンの端っこを握りしめて我慢をする。

「はい、次は旦那様の方の指を…」

 彼女の気持ちが分からない店員は、次にカイトの指を求めた。

 あ。

 ドキッとする。

 大好きな、カイトの指のサイズが計られるのである。

 長くて、器用で―― そして、抱きしめ触れてくれる指。

 同じ指輪を、彼とするのだ。

 そう思うと、ドキドキドキドキした。

 いま、彼女はカイトとペアと呼ばれるものを、何も持っていない。

 それどころか、一緒に撮った写真さえない。

 二人の証拠と言えば、役所にある婚姻届以外になかった。

 要は。

 土地はあるけれども、まだその上に何の家も塀もない状態なのだ。

 人がきても、誰もその土地を彼らのものだと分からない。

 100人に聞かれたら、100人に同じことを答えなければいけない。

『私たちは夫婦なんです』と。

 その数を1/10以下に免罪してくれるもの。

 それが、結婚指輪。

 なのに。

「オレは、いい」

 などと、カイトが言うのだ。

 驚いて彼を見る。

 結婚指輪は、二人ではめて初めて成り立つものではないのか。

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