冬うらら2

 メイの頭の中には、教会の結婚式の映像がよぎる。

 一人だけ早く結婚した、友人の式を思い出したのだ。

 指輪の交換を。

 あなたが私に。私があなたに。

 二人で同じものを―― その希望が、ガラガラと音を立てて崩れた。

 そうすると、じわっと胸の奥が悲しくなる。

 彼と、初めて同じものを身につけられると思っていたのに。

 一人ぼっちで指輪なんかしても、全然嬉しくなかったのだ。

「それなら…私も、いいです」

 店員が、カイトをどうにかその気にさせようとしてくれてはいたが、彼女はすっかり気落ちしてしまった。

 素敵な花を見つけて手折ろうとした瞬間、枯れ落ちてしまった。

 一瞬見えた、あの素晴らしさの光は、幻だったのだと自分に言い聞かせなければならない。

 一人でなんて、欲しくない。

「一緒にしないと…意味ないもの」

 それならいっそ、ない方が。

 ズシーン。

 今のメイは、アリが踏んでも壊れてしまいそうだった。

 そうして自分に言うのだ。

 ほら、見てごらんなさい、と。

 彼が自分のことをすごく好きだなんて錯覚するから、こういうしっぺ返しに遭うのだと。

 いや、好かれているのは間違いない。

 けれども、いまメイが錯覚したほどではないのだ。

 いけない、と自分でも分かった。

 無用に落ち込もうとしている。

 何でもかんでも悪い方に取って、自分を可哀想にしようとしていることに気がついた。

 慌てて、それを振り払う。

 このままじゃ、カイトを正しく翻訳なんか出来ないと思ったのだ。

 にゅっ。

 いきなり、メイの目のそばに、何か出てきた。

 近すぎて、一瞬何なのか分からなかったが、よく見ると―― カイトのワイシャツの腕であることが分かる。

 彼が、腕を突き出していたのだ。

 その顔は。


 これから、予防接種でも受けるかのようだった。

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